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ノヴェル・イレブン、ブック・エイティーン [著] ダーグ・ソールスター

[評者]大竹昭子(作家)

[掲載]2015年05月17日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■奇妙で熱心な生の探求者

 村上春樹がノルウェー滞在中に出会い英語版から訳出した日本で初紹介のノルウェー作家の小説だ。重訳になっても訳さずにいられなかったと訳者あとがきにあるが、そう思うのも当然に感じられるほど奇妙な傑作である。やはり世界は広い。
 話の大筋は最初の2ページでつかめる。家庭を捨ててある女と14年間暮らし、別れたのちに、どうしてあの女に惹(ひ)かれたかわからないと自問する50男の話だ。
 ありふれた設定だが、過去を振り返る主人公のねちっこい考察と論理がふつうでなく、凡庸な話が凡庸でなくなる。彼の論理を支えているのは、2人の人間性を囲んでいる状況を人はただくぐり抜けていくに過ぎないという醒(さ)めた意識だ。そんな男なら家庭を捨てて別の女に走りそうもないが、実行してしまうのがこの男の奇妙なところ。人生に設定をほどこしそれにダイブして生を駆り立てるのだ。「この世で最も素晴らしい幸福は短い幸福である」と心の底でわかっていながらも。いや、それがために……。肉体に陰りが見えてきた今、彼はある計画を思いつき実行する。後戻りができないゆえに創造的ですらあるその行為の内容は読んでのお楽しみだ。
 人が何かの行動を起こす時、真の動機はわからない。確かなのは、その時々に切実に思うことを実践することだ。このわかりきった事柄を、皮肉のこもったユーモアを散りばめて論理的に畳みかけていく書き方は、人間存在の孤独に生命力を吹き込んでいくようで圧倒される。また、奇想にとりつかれた主人公が、エキセントリックに、演劇的に、人生を創造していくさまは、芸術行為にも通じるところがあり、主人公の年齢を自身に近づけて設定し、11冊目の小説、18冊目の著書という意味のタイトルを与えた作家への興味もそそられた。主人公同様に愛すべき「変人」にちがいない。
    ◇
 村上春樹訳、中央公論新社・1836円/Dag Solstad 41年生まれ。本書でノルウェー文芸批評家賞受賞。

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