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大瀧詠一 Writing & Talking [著] 大瀧詠一

[評者]宮沢章夫(劇作家・演出家)

[掲載]2015年05月17日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能

表紙画像

■世界的視野でポップス分析

 アルバム「ロング・バケイション」をはじめ、多くのヒット作を残し、二〇一三年に惜しまれて亡くなられた、音楽家の大瀧詠一による、さまざまな種類の言葉が網羅された大著だ。
 日本のポピュラー音楽の構造を明らかにした「分母分子論」をはじめ、かつて読んだ文章もいくつかあるが、通読して初めて大瀧詠一の思考の動きを理解できたのを感じる。そこには、アメリカンポップスをはじめ、膨大に聴いた音楽による分厚い教養とともに、音楽そのものへの大きな愛情がある。いや、愛情がすべてかもしれない。しばしば口にしていたティーンエイジャーだった頃の無邪気な音楽ファンに回帰したい思いが、裏がえって綿密なポップミュージックの分析になったのではないか。だから、日本において、ポップスやロックンロールという言葉で語られる音楽をアメリカを中心にした外国からどう輸入し、消化してきたか、そこにどんな誤解があって現在に至ったかがクロニクル的に語られる。本書で大瀧詠一が強調して書くのは、日本人としてポップミュージックを世界的な視野で考えたときの、「自惚(うぬぼ)れない精神」だ。
 日本のポップミュージックがどこからやってきたか。たとえば、明治初期まで遡(さかのぼ)り、「蛍の光」はスコットランド民謡が原曲だと明示するように、ロックはどのように形になったか、フォークの祖はなんであったか、自身を含めた日本のポップミュージックを遡り、繰り返し何度も対象化する。その態度に妥協はない。
 FMラジオで大瀧は、「アメリカン・ポップス伝」という番組を何年かにわたって断続的に放送してきたが、一三年の死によって中断された。その先を聴きたかった。いまでも悔やまれる。けれど、本書を通読することで大瀧が語ろうとした内容を想像することは可能だ。それは感動的ですらある。
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 白夜書房・4860円/おおたき・えいいち 48〜2013年。70年「はっぴいえんど」でデビュー。プロデュースも多数。

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