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日本の官能小説―性表現はどう深化したか [著] 永田守弘

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年05月24日

[ジャンル]文芸 人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■戦後社会見わたす格好の手引書

 終戦直後から現在までのあいだに、官能小説はどのような変遷をたどってきたのか。官能表現の進化および深化、読者の好みの変化、さまざまな作家の持ち味や魅力を紹介する本。
 実際に多数の作品の一節が引用されているので、下心から本書を読みはじめたのだが、「すごい本だ」とすぐに襟を正した。なにしろ1945年から2014年まで、一年単位で社会の動向や情勢や流行が解説され、それを反映し象徴するような官能小説が引用とともに提示されるのだ。官能小説を通して戦後の現代日本を見わたす内容になっており、毎年300編は官能小説を読むという著者にしかできない、大変な労作だ。
 1970年代まで、官能小説は取り締まりを受けることがあったそうで、検閲と表現の自由についても考えさせられる。裁判沙汰になった作品も引用されているが、いま読むとまったくエッチじゃない。感受性と想像力が(ある意味では)豊かな人々が摘発したのだろうか……。また、女性作家がどんどん増え、新しい表現や観点を官能小説界にもたらしていることもわかった。
 性を扱った作品は、評論の対象になりにくく、記録されないまま消えていってしまう傾向にある。だが、読者に楽しい時間を与え、記憶に残る作品が、実は無数に存在している。著者は本書で、それらを見事に記録、評論した。私は、「エロスを味わうなら活字」派なので、「わあ、読んでみたい!」という作品がたくさんあって、いまうれしい困惑のなかにいる。本屋さんや古本屋さんで探さねば!
 著者の官能小説への愛と、たゆまず官能表現を磨きつづける作家たちへの敬意にあふれた一冊だ。時代とともに歩みつづける官能小説の世界へ導いてくれる、格好の手引書でもある。「おっぱい派」と「お尻派」についても、真剣に論考されてます!
    ◇
 朝日新書・842円/ながた・もりひろ 33年生まれ。評論家。編著に『官能小説用語表現辞典』など。


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