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長田弘全詩集 [著] 長田弘

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2015年05月24日

[ジャンル]文芸 人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■人生で大切なこと、深く見つめた言葉

 今月初めに、詩人の長田弘は亡くなった。その少し前に刊行された全詩集は、これまでにまとめられた詩集のすべてを集大成したかたちだ。『われら新鮮な旅人』(1965)から『奇跡—ミラクル—』(2013)までの18冊・471編を収録する。およそ半世紀に及ぶ時間のなかで、この詩人がどのように歩んだか、改めてたどることができる。著者によって書かれた言葉と、じっくりと向き合える場がひらかれた。
 単独の存在としての各詩集が集まって、一冊になることは、新たな「一冊の本」の誕生を意味する。著者による「結び」の言葉を引けば、「まったくちがって見えるそれぞれの詩集が、見えない根茎でたがいにつながり、むすばれ、のびて、こうして一つの生き方の物語としての、全詩集という結実に至った」ということだ。
 全詩集を通して読むと、著者が繰り返し詩に書いた事柄が浮かび上がって見えてくる。生と死、日常、本と読書、自然、樹木、風景と人との深い関わり。生きていくなかで何を大切だと思うか。詩を通して著者が表したかったことは、それに尽きるといっていいだろう。人生とは一日一日を生きていくことだという、シンプルだけれど、だからこそ困難でもある人間のすがたを見つめる。
 第一詩集の鮮烈さは、詩の読者のあいだではいまも記憶されている。『深呼吸の必要』(1984)も刊行当時、話題になった。けれど私は、著者の60代以降の詩集に、陰影の深まりを感じる。『一日の終わりの詩集』以降だ。それ以前にすでに書かれたモチーフも扱っているのに、なぜ、深まりを感じるのか。その点について考え、思い至った。著者の思考は、年齢を重ねることとなじむ方向性をもっていたのではないかと。
 「人生は、何で測るのか。/本で測る。一冊の本で測る。/おなじ本を、読み返すことで測る。」「一体、ニュースとよばれる日々の破片が、/わたしたちの歴史と言うようなものだろうか。/あざやかな毎日こそ、わたしたちの価値だ。」
 古今東西の文学や哲学にふれる詩も少なくない。一読者としてどんなふうに読んだかを、著者は詩にして、その味わいを伝える。長田弘の詩がひろげるのは、大きな木の下にいて静かに本のページをめくるような時間だ。これは一貫している。批判や警句を秘める詩も、おだやかな言葉の流れのなかに展開する。「死は言葉を喪(うしな)うことではない。沈黙という/まったき言葉で話せるようになる、ということだ」。そんな箇所もある。ならば、全詩集をひもといて、この沈黙に耳を澄ましたい。読まれるたびに、詩はよみがえる。
    ◇
 みすず書房・6480円/おさだ・ひろし 39年生まれ。詩人。65年に『われら新鮮な旅人』でデビュー。『世界はうつくしいと』で三好達治賞、『奇跡—ミラクル—』で毎日芸術賞。2015年5月死去。


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