日常に侵入する自己啓発―生き方・手帳術・片づけ [著]牧野智和

[評者]荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)  [掲載]2015年05月24日   [ジャンル]社会 

表紙画像 著者:牧野 智和  出版社:勁草書房

■片づけも儀式、流行が社会を映す

 自己啓発書は実に幅広い。仕事術はもちろん、何歳までにこれをしようと煽(あお)る「年代本」に、上手な時間管理を促す「手帳術」。さらには、人生さえも変えるという「片づけ術」。共通しているのは、成功もスキル獲得も、本人の努力や自己管理によって達成できるとささやくことだ。家庭環境や今置かれている状況などは無視し、「たった一つの習慣」や「気持ちひとつ」で人生が変わると説く。
 無論、ほとんどには科学的根拠がなく、筆者の体験談を元に、キャッチーなフレーズを駆使して読者のハートを揺り動かす。その「胡散(うさん)臭さ」にツッコミを入れるのもいいだろう。とはいえ、これだけの自己啓発書が流通するということは、相応の社会的機能があるはずだ。
 果たして自己啓発書に、いかなる社会的機能があるのか。本書は、膨大な自己啓発書を整理しながら、その流行変化が社会の何を映し出しているのかを考察する。人は、手帳術を学ぶことで「時間感覚」を、片づけ術を学ぶことで「空間感覚」を再編する。男女、年代の違いによっても、「自己啓発」に求めるものは異なる。男性向けのものは仕事や趣味における上昇志向を刺激し、女性向けは美の追求を通じて自分磨きを要求する。典型的なイメージながら、人はそれに癒やされる。直接読むと「うへぇ」と投げ出しそうだが、本書のように客観的に分析されると、雑多な書籍たちが星座を形作っているように見えて面白い。
 「片づけ本」を整理した5章は最近でもベストセラー多発の分野だけあってタイムリーだ。主に男性経営者向けには、精神浄化の儀式としての掃除を。主に女性向けには、ありのままの自分を取り戻すための片づけを。現在の自己に不満を抱く人は、何かしらの儀礼を求めている。片づけのように些細(ささい)なことであっても、大層な儀式に変わってしまうものだ。
    ◇
 勁草書房・3132円/まきの・ともかず 80年生まれ。大妻女子大学専任講師。『自己啓発の時代』など。


この記事に関する関連書籍


荻上チキ(「シノドス」編集長・評論家)の他の書評を見る

この記事に関する関連記事

ここに掲載されている記事や書評などの情報は、原則的に初出時のものです。

ページトップへ戻る

ブック・アサヒ・コム サイトマップ