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「琉球史を問い直す―古琉球時代論」書評 周辺諸国との交渉から読み解く

評者: 本郷和人 / 朝⽇新聞掲載:2015年06月07日
琉球史を問い直す 古琉球時代論 (叢書・文化学の越境) 著者:吉成 直樹 出版社:森話社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784864050784
発売⽇:
サイズ: 20cm/285p

琉球史を問い直す―古琉球時代論 [著]吉成直樹・高梨修・池田榮史

 沖縄の歴史を論じる時に二つの態度があり得る。(1)他国(日本を含む)との関係に配慮するが、沖縄の内発的な発展を重視する。(2)東アジア諸国、とくに日本との交渉を重視する。本書は(1)を批判して(2)の立場に立ち、グスク時代の始まり(11世紀ごろ)から琉球国への島津氏の侵攻(1609年)まで(古琉球時代という)を再検討する。
 歴史学は科学であり、客観的な考察を身上とする。だが古琉球時代については文字史料が乏しく、日本中世史の通常の分析方法が有効でない。そのため史像の解明には様々な工夫が必要であり、それは時として現代的な思想信条(沖縄は独立すべきだ等)と抜き差しならぬ連関をもつ。
 グスク時代の幕開けは喜界島(奄美群島)からの住民の移住を契機とする。琉球の尚王朝の誕生は倭寇(わこう)の活動の産物である。そう本書は説く。その史像は到底(1)とは相いれないが、まずは虚心坦懐(きょしんたんかい)、こうした説が「ある」ことを知るところから始めたい。
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 森話社・3132円