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世界“笑いのツボ”探し [著]ピーター・マグロウ、ジョエル・ワーナー

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2015年06月14日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■様々な笑い、根本は万国共通

 笑いとは何か? 常日頃から興味があったが、いまだに明解な答えはないらしい。この謎を少々偏屈な2人の米国人が解き明かそうと試みた。理論派で行動経済学が専門の大学教師と、暗い事件が嫌いなジャーナリストである。
 最初に閃(ひらめ)いたのが「無害な逸脱」理論だという。ぼくが最も気になっていた「くすぐり」という不意を突いた侵害行為も、その理論で説明できそうだ。見知らぬ人からくすぐられたら笑うどころではないが、仲のよい知人のものなら無害な逸脱なので笑える、と。だがこの理論はユーモア研究の権威から批判されたという。そこで著者の一人が証明すべく、あるクラブのステージに立ったのだが……。
 笑いは、思考実験だけで解明できるほど単純ではなかった。失意の著者2人は研究所を飛び出し、タンザニアなど世界各地にフィールドワークの旅に出る。米国のお笑い芸の華、スタンダップ(一人漫談)は演者と観客との駆け引きで勝負が決まる笑いの修羅場ともいえるが、話術が主の笑いの世界は、言葉の壁が厚い。ぼくもその面白さを知りたいのだが、全く笑えない。スラング連発の米国ジョークは翻訳が不可能なのだ。
 日本の大阪へも足を延ばした。だが案の定、言葉の壁、文化の壁に戸惑う。落語は眠くなるばかり。日本の商業的な笑いは異質と思ったが、大阪の居酒屋で体験した言葉を超えた飲みニケーションや東京で見た芸から、人間の根本的な笑いは万国共通と学ぶ。
 おまじないや呪術はある共同体の中でしか有効ではないが、人間関係を潤すジョークも世界標準(グローバルスタンダード)はなさそうだ。だから彼らの探訪はスムーズに行かず、探訪自体がコメディーに思えてくる。笑いを相対性理論のように理論化することは到底不可能だが、本書には興味深い社会学・人類学的考察も多い。各地の「笑い」の哲人が披露する持論は面白く、ぼくには収穫である。
    ◇
 柴田さとみ訳、CCCメディアハウス・2376円/Peter McGraw 米コロラド大学准教授、Joel Warner。

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