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多数決を疑うー社会的選択理論とは何か [著]坂井豊貴

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年06月14日

[ジャンル]政治 社会

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■「選挙で勝ったから民意」の危険

 2000年の米大統領選では優勢だったゴアがブッシュに敗れた。支持者が重なる市民運動家ネーダーの出馬で票が割れた結果だった。
 多数決は必ずしも多数の意思を反映しない。いち早くそれに気づいた数学者ボルダはフランス革命前の1770年に修正案を提起していた。候補者が3人なら支持順で1位に三票、2位に二票、3位に一票を投じる彼の投票法は票割れに影響されない。冒頭の米大統領選で採用されていれば総得票数でゴアが勝ち、歴史は変わっていただろう。
 より正確に民意を示す集約ルールを模索するボルダ以来の社会的選択理論の取り組みを本書は紹介し、具体的事例について分析する。
 たとえば現行憲法96条は衆参両院で3分の2以上の賛成を得た改憲案Xに対して国民投票で過半数が得られれば現行憲法Yを改めてよいとする内容だ。だがそこで問われていない別の改憲案ZをXと競わせたらZが国民投票で勝っていたかもしれない。更にそのZとYを比べるとY、つまり現行憲法のままでよいとする人が多数となると「三すくみ(サイクル)」状態になる。
 こうして実は決定不能だったのに決めてしまう危険を回避し、本当の多数意見としての正当性を得るには約64%の支持がXに必要だと社会的選択理論では考えられている。それに照らせば国民投票で過半数の賛成を条件とする96条は、一部の世評とは裏腹に「弱すぎ」る。より改憲しにくい方向への改正が必要と著者は書く。
 本書が示すのは確かな検証を経ずに「多数決で決めたから民主的」「選挙で勝ったから民意」とする強引な姿勢がむしろ民主主義を壊す逆説だ。「右」「左」などの立場の違いを超え、誰もがその警告を傾聴すべきだ。読解に多少の数的処理力が必要だが、それは「自分たちのことを自分たちで決める」民主主義を守る知的コストだといえよう。
 評・武田徹(評論家・恵泉女学園大学教授)
    ◇
 岩波新書・778円/さかい・とよたか 75年生まれ。慶応大学教授(社会的選択理論)。『マーケットデザイン』。

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