書評・最新書評

困難な選択(上・下) [著]ヒラリー・ロダム・クリントン

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年06月21日

[ジャンル]人文 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■女性初の米大統領? 実績と自信

 来年秋の米国大統領選に再び立候補するヒラリー・クリントン氏(67)の回顧録である。弁護士、ファーストレディー、上院議員、そしてオバマ政権の一期目で外交・安全保障の要となる国務長官を務めた。妻であり、母であり、祖母にもなったヒラリー。「最も高く、最も手ごわい」と彼女自身が表現した米国大統領という「ガラスの天井」が今度は、砕けるのか——。
 そんな注目も集めるなかで邦訳が出版された。112カ国を飛び回った国務長官時代、2008年からの4年間を中心に振り返り、米国の指導力の方向性を展望する。まだなまなましい「世界史」の事件が、「ヒラリー史観」でつづられる。全25章のうち2章分が中国。「呉越同舟」に例える中国とのかかわりは、気候変動やイランの核問題など他章でもしばしば登場する。
 ミャンマーとの関係改善にかかわる章が印象に残る。民主化運動の指導者、アウンサンスーチー氏との会談や交流を通じて、民主主義や女性の権利といった、彼女が長くこだわりをもってきたテーマが浮かび上がる。人権を扱った最終章も、女性の権利を話すと相手国の指導者の目が「どんより」するとか、思慮深い人でも「にっこり」するだけとか、言葉に体温がこもる。
 今春の大統領選への出馬表明後、初の大規模集会で、こう語った。「最も若い候補ではないが、米国の歴史上、最も若い女性大統領になる。初めてのおばあちゃん大統領になる」。前回は控えているようにみえた「女性初」の歴史的な意義を、強調するようになった。
 国際テロ組織アルカイダのオサマ・ビンラディン容疑者への急襲、アフガニスタンやイラクの紛争処理、シリアへの対応……。この本に周到にちりばめてある「強さ」の実績と自信が、「女性初」を解禁させたのかもしれない。原著は昨年6月の出版。将来への野心にあふれる自伝だ。
    ◇
 日本経済新聞社訳、日本経済新聞出版社・各2160円/ Hillary Rodham Clinton 米国の前国務長官。

関連記事

ページトップへ戻る