書評・最新書評

日本の納税者 [著]三木義一

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年06月21日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■「納税は権利」根付かぬ背景は

 「納税は国民の権利だ」というと、怪訝(けげん)な顔をされる読者も多いだろう。「納税は義務だ」というのが、我々の常識的な受け止めだからだ。実際、日本国憲法第30条には、国民の納税義務が謳(うた)われている。
 だが、欧米では実は、市民革命を経て納税は「国民の権利」として確立したのだ。つまり、王政(国家)の無謀な課税から保護される権利、国民の同意なしに課税されない権利、納税するからには予算編成に参画し(議会の役割)、支出を監視し、コントロールする権利である。これは「主権者」としての国民の権利行使を、財政面から担保している。
 にもかかわらず、本来は国家に対して納税者主権を要求すべき議会が、日本では逆に戦後憲法の制定過程で、政府原案にもなかった納税義務規定を入れさせたというショッキングな事実も、本書によって明かされている。
 この結果、納税者の権利保護はきわめて薄弱である。驚くべきことに、つい最近(2012年)まで、税務署は納税者に事前通知することなく突然、税務調査を行うことが許されており、さらに何と、理由を明記することなく課税処分を行うことすら可能だった(同年まで)。ここに、我が国における国家と市民社会の関係性が集中的に反映されている。つまり根強い「お上」意識であり、国家の「無謬(むびゅう)性」の前提である。
 民主党政権下で、1970年代から世界各国で制定されつつある「納税者権利憲章」を策定、日本の納税者主権を前進させようという試みはあった。しかし嫌がる財務省をはじめ、「権利」への強い抵抗が各方面から起きて座礁したという。だが、納税者の権利を保障し、国民の財政論議への参画を促してこそ、税金の使い道への関心を高め、ひいては財政再建への国民の協力を引き出すことにつながるのではないか。税金を通じて国家と国民の関係を考えさせる、示唆に富む一冊である。
    ◇
 岩波新書・799円/みき・よしかず 50年生まれ。青山学院大法学部長。『日本の税金』『給与明細は謎だらけ』など。

関連記事

ページトップへ戻る