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紙の動物園 [著]ケン・リュウ

[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)

[掲載]2015年06月28日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■未来と郷愁と生の意味を紡ぐ

 話題のSF作家による短編集。つよいノスタルジアの感覚が、巧みなプロットの15編を包んでいる。
 表題作「紙の動物園」に、SFエンターテインメントを期待する読者は戸惑うかもしれない。英語がへたな中国人移民の母がつくってくれた、生きて動く折り紙の話だ。アメリカ人として生きるため母を疎んじた息子の前で、紙の老虎が再び動き出す。
 つづく「もののあはれ」は宇宙船の危機を日本人主人公が救う話だし、「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」では人類のほとんどが意識だけになって、データセンターにアップロードされている。だがこうしたいわゆるSFらしい設定は、世界各地の神話や伝統文化、そして現代社会の諸問題と結びつけられ、寓話(ぐうわ)的な奥行きをストーリーに与えている。
 たとえば「結縄(けつじょう)」ではアメリカの科学者が、縄の結び目で記録を残す古代の技に長(た)けたある民族の老人を、たんぱく質の構造研究に利用する。お礼は収穫量は多いが翌年は発芽しない、遺伝子組み換えの種籾(たねもみ)。古い米の遺伝子、螺旋(らせん)状に縒(よ)りあわされた古(いにしえ)の結縄は、忘れられ失われていく。
 異なる文化・信条に葛藤する親子が、時空を超え繰り返し登場する。漢字や中医学、台湾や日本との歴史的関係、合衆国の反共政策も重要なモチーフ。著者は11歳で中国甘粛省から米カリフォルニアへ家族で移住したという。郷愁の源は祖先の国とのつながりか、未来の物語それ自体が懐かしい過去を欲するのか。
 「月へ」では亡命申請中の中国人男性の娘が、新米弁護士に、こういう。「大きくなったら、あなたみたいになりたいな。生きていくためにお話をするの」。暗黒の世界/宇宙へ向けて、物語る人はことばの網を投げかけ、人々が生き延びるのに必要な意味を紡ぎ出す。人の生存には水や食べ物や科学だけではなく、物語が必要だから。
    ◇
 古沢嘉通編・訳、早川書房・2052円/Ken Liu 76年中国生まれ。米国の作家。ヒューゴー賞など受賞。


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