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ニュルンベルク裁判 [著]芝健介

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2015年06月28日

[ジャンル]歴史 国際

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■「勝者の裁き」と平和への意義

 今夏、問い直される日本の責任。しかし、しばしば比較されるドイツの歩みを、われわれはどれだけ知っているのか。ナチス裁判に加え、協力者への裁判も詳述した研究書と、ドイツの学者による入門書が相次いで出版された。
 戦争犯罪を問う前例は、第1次大戦後にすでにあったが、第2次大戦後も、関係諸国の思惑が激突する中で、紆余曲折(うよきょくせつ)があった。イギリスのチャーチル首相らはドイツ将校の即時銃殺を主張し、裁判が当然の前提ではなかったというのは興味深い。
 軍事裁判が不公平な「勝者の裁き」だという不満はドイツでも渦巻いたが、米政治家スティムソンによれば、「釈放するか、即決処罰するか、裁判手続きをおこなうか」という三つの選択肢しかなかった(ヴァインケ著)。検事を務めたジャクソンは、裁く側の「われわれも歴史に裁かれることになりましょう」と、その覚悟を述べたという(芝著)。
 印象に残ったのは、裁判へのドイツのかたくなな姿勢だ。講和時に東京裁判を受けいれた日本に対し、「歴代の西独政府はニュルンベルク裁判の判決を公式には受けいれてこなかった」という芝の指摘は衝撃的である。裁判にあたり、ナチスをかくまったりかばったりする動きも当初は根強かったという。
 それでも1960年代以降に責任追及の動きが活性化し、90年代の旧ユーゴ国際戦犯法廷などをきっかけに、ニュルンベルク裁判の意義がドイツでも再認識された。
 「勝者の裁き」には限界があり、原爆投下などの犯罪は不問に付されている。しかし、誰も裁かれないよりはましであり、それによって戦争犯罪の違法化が一歩進んだのではないか。事後法への批判も可能だが、国際法は未曽有の経験を受けて発展してきた面もある。一連の裁判の記録にふれながら、平和と正義をめぐって考えを深めたい。
    ◇
 岩波書店・3456円/しば・けんすけ 東京女子大教授▽板橋拓己訳、中公新書・886円/A.Weinke イエナ大助手。


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