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宝塚・やおい、愛の読み替え―女性とポピュラーカルチャーの社会学 [著]東園子

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年06月28日

[ジャンル]政治 アート・ファッション・芸能 社会

表紙画像

■同性の友愛、サブカルが映す

 女性が「男役」と「娘役」を演じる宝塚歌劇に女性観客が嬌声(きょうせい)をあげる。漫画やアニメの男性キャラクターを同性愛関係に仕立て直した「やおい」を女性が同人誌に投稿し、多くの女性読者を得る。
 本書はこうした現象を対象として同性、異性それぞれの間の恋愛(性愛)と友愛のあり方を分析してゆく。
 封建時代の一族郎党による血縁支配を打破すべく近代社会は公的領域の非「性」化を建前とした。一方、近代社会は男性支配社会でもあり、男同士が権力のネットワークを築くが、非性化原則のもとで彼らは自分たちが同性愛者でない証しを立てなければならなかった。そこで私的領域では女性を異性愛の対象とすることが男性には求められ、女性もまた異性間恋愛を社会から強制されることになる。
 このような構図の中で宝塚は一種の「特区」だった。女性ファンたちは舞台上で演じられる異性間恋愛劇に、舞台裏でタカラジェンヌたちが育んでいるだろう女同士の友愛の光景を重ねて見る。こうした「愛の読み替え」は異性間恋愛が強制される中で軽視されがちだった女同士の友愛の絆を女性たちが自ら確かめる作業なのだ。やおいも男同士の友愛を禁断の恋愛関係に読み替える解釈を通じて女同士の絆を確かめ、育む場として機能している。
 こうして宝塚ややおい人気の背景に控える抑圧の構造が示されてゆく。本書の守備範囲外だが、よく指摘される日本で女性の議員や管理職が少ない問題も、公的領域に張り巡らされたオヤジの絆が女性の参入を阻む例なのだろう。そうした事情に思いが至らぬ男性政治家や官僚が抑圧のはけ口だった宝塚ややおいを含むサブカルチャーを「クールジャパンの誇るべきコンテンツ」と礼賛する姿は滑稽だ。
 サブカルは社会の質を映し、優れたサブカル論は普遍的な社会論の礎になる。本書はその好例だろう。
    ◇
 新曜社・3672円/あずま・そのこ 78年生まれ。大阪大学招へい研究員(文化社会学・ジェンダー論)。


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