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世論調査とは何だろうか [著]岩本裕

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2015年07月05日

[ジャンル]社会

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■戦後GHQが導入、質問の仕方で違い

 本書は、世論調査の起源から、現在にいたるまでの歴史を示すとともに、今後の可能性を見ようとするものだ。古来どんな国家体制もそれなりに「民意」にもとづいている。しかし、「世論」(パブリック・オピニオン)が真に重要となったのは、人民が主権者であるような国家が成立してからだ。以来、人民の意思を示す世論が、特別の意味をもつようになった。
 世論は代表制選挙において表現される。しかし、選挙だけでは不十分である。というのは、選挙では問われなかった諸問題が生じるからであり、また、選挙以後に民意が刻々と変化するからである。それに対応しないなら、直接行動(抗議デモなど)が生じる。したがって、変化に対応するため、これまでも世論調査に類したことがなされてきた。が、科学的な世論調査が確立されたのは、近年である。統計学の理論にもとづき、少ない調査対象(サンプル)を無作為(ランダム)に選ぶことによって、全体の世論を推定できるようになった。
 世論調査は、日本では戦後、新憲法と同様に、連合国軍総司令部(GHQ)によって導入された。GHQにとって、それは日本の民主化にとって不可欠なものであった。1948年7月、朝日新聞が「見本数3500人、面接法、地域層化無作為抽出法」という科学的な世論調査をおこなった。以来、世論調査はどのような役割を果たしてきたか。多くの場合、それは選挙の予測や速報のために使われてきた。それは商業的な意味をもつだけで、民主主義に不可欠であるとはいえない。
 ただ、今世紀に入って、RDD調査法(番号をランダムに選んで電話する)が採用されるにいたって、内閣支持率を容易に知ることができるようになった。同時に、これが内閣の存亡を左右するようにもなった。つまり、世論調査が露骨に政治的機能をもつようになったのである。世論調査では、質問の仕方、すなわち、言い回し・順序・選択肢などによって、回答が違ってくる。また、調査主体が誰であるかによって、回答者が違ってくる。こうなると、世論調査は主権者=人民の意思を知るものではなくなる。世論調査はむしろ世論操作となってくる。
 本書では、それらと違った、討論型世論調査などの可能性が検討されている。しかし、私は、現在の世論調査でも「民意」を知ることができると考える。たとえば、憲法9条に関して、正しい仕方で質問するならば、改憲反対が圧倒的多数だとわかるだろう。むろん、政府当局者はそのことを知っている。だから、いざ選挙になると、改憲を決して口にしない。その意味で、世論調査が活用されている。世論を無視するために。
    ◇
 岩波新書・864円/いわもと・ひろし 65年生まれ。NHK解説委員などを経て、現在、同局放送文化研究所世論調査部副部長。著書に『朽ちていった命』『NHK 地球テレビ100 世界のニュースがわかる本』『失われた「医療先進国」』など。

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