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勝者なき戦争 世界戦争の二〇〇年 [著] イアン・J・ビッカートン

[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)

[掲載]2015年07月05日

[ジャンル]歴史

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■後引く犠牲と損害、勝敗とは?

 日露戦争で日本は勝利したことになっているが、賠償金も、領土割譲も期待を遥(はる)かに下回り、国民に大いなる失望をもたらした。そもそも、アメリカが調停に乗り出したのも、満州における日露双方の権益拡大を牽制(けんせい)する意図があったからで、結果からすれば、自国のアジア戦略を戦わずして有利に導いたアメリカが日露戦争の真の勝者だったともいえる。
 第二次大戦はドイツ、日本の敗戦に終わったものの、両国はともに民生中心の復興に専念し、戦争に加担しなかったため、「奇跡の復活」を遂げ、戦後三十年にして、経済大国になった。P・K・ディックは『高い城の男』で日独が戦勝国になったパラレルワールドを描いたが、米英が不況に喘(あえ)いでいた時期は、そのSFの通りの皮肉な結果になったといわれた。
 本書はここ二百年のあいだに起きた戦争がもたらした結果に公正な歴史的評価を下そうとしているが、その結論は歴史上のどんな戦争も、得られる利益より失う犠牲の方が大きいということである。多くの場合戦勝国の損害も甚大であり、歳月の経過とともに勝利や敗北の意味は薄れるどころか、逆転しさえもする。
 アメリカが矛盾だらけの中東軍事介入を行い、実質、タリバンやISなどのテロリスト集団を育成する結果となった今日、戦争は国家間の武力衝突から、テロやサイバー攻撃、経済戦争の形で日常に潜在するものになった。戦争で勝利した国も平和維持のための軍事負担によって滅びたという世界史の法則を顧みれば、どんな国家も極力敵を少なくすることでしか平和を維持できないことは自明である。連合国が作った二十世紀の後半の世界秩序も、旧植民地や共産国の逆襲によって綻(ほころ)びが出ている。軍需産業を抱える連合国とその協力国が国益をかざし、さらなる戦争に踏み切れば、おのが没落を早めることになる。
    ◇
 高田馨里訳、大月書店・3888円/Ian J. Bickerton 38年生まれ。ニューサウスウェールズ大学名誉教授。

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