1. HOME
  2. 書評
  3. 奥田亜希子「透明人間は204号室の夢を見る」書評 誰が自分を見てくれるのか

奥田亜希子「透明人間は204号室の夢を見る」書評 誰が自分を見てくれるのか

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2015年07月05日
透明人間は204号室の夢を見る 著者:奥田 亜希子 出版社:集英社 ジャンル:小説・文学

ISBN: 9784087754254
発売⽇: 2015/05/01
サイズ: 20cm/183p

透明人間は204号室の夢を見る [著] 奥田亜希子

 主人公の実緒は孤独な作家。小説が書けない。友達がいない。「どうせ誰も自分を見ない」。透明人間になった自分を、実緒は繰り返し夢想する。
 空想の中で訪ねるのは、いつも204号室。そこに住む男性が、かつて自分が書いた本を、書店で手に取ってくれたから。ところが男性の恋人と知り合い、実緒の世界は動き出す。友人を得た喜び、男性への思い。生きることそのものへの渇望のような、素朴な感情の揺れがせつない。
 やがて事件が訪れ、実緒は立ちつくす。誰が自分を見てくれるのか。誰に向けて書けばいいのか。たどり着く結末は、著者自身の自問の末の決意のようにも読めて、深い余韻を残す。
    ◇
集英社・1404円