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九州大学生体解剖事件 七〇年目の真実 [著] 熊野以素

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年07月05日

[ジャンル]歴史 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■人の弱さを追い、医の倫理示す

 九州大学生体解剖事件は、戦時下に米軍捕虜8人を生きたまま解剖した非人道的な所業で、医学の原点を問う犯罪行為だった。これまで著名作家による小説、ノンフィクションがあったが、本書は関係医師の縁者が改めて、事件の本質を問うている。
 著者は、この事件を「西部軍と九大医学部の共同行為としての生体実験」と断じ、軍の捕虜虐殺の一環だと明言する。こう断定するための著者自身の調査や史料収集、さらに伯父(鳥巣太郎・同大医学部第一外科助教授)により添っての視点は説得力を持つ。軍の総意は捕虜を「処置」せよにあり、それが九大関係者に伝えられる。大学側は「医学の進歩」のためと称し、軍国主義教授主導で数回にわたり実験手術を続けた。
 狂気の時代の歪(ゆが)んだ人間像を著者は追いつつ、その論理にふり回される医師の弱さを描く。戦犯裁判の内実を通して、煩悶(はんもん)の果てに助教授の後半生が辿(たど)りついた「医の倫理」が示されている。
    ◇
 岩波書店・2052円

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