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寺院消滅―失われる「地方」と「宗教」』 [著]鵜飼秀徳

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年07月12日

[ジャンル]政治 人文 社会

表紙画像

■25年後に35%減!? 実情率直に

 若年女性の減少や、都市への人口流出を理由として2040年までに消滅する可能性のある都市(市区町村)のことを消滅可能性都市といい、その数は896になる。
 都道府県(福島県をのぞく)に所在する宗教法人の数は17万6670。このうち消滅可能性都市にあるものが約6万。都市がなくなれば、宗教施設も生き延びられない。つまり、あと25年すると、寺院・神社・教会などの約35%が消滅するかもしれない。
 本書の著者は記者でありながら、僧侶の資格をもつ。仏教の前途にショックを受けて全国の寺院を綿密に取材し、現金収入が乏しく生活が成り立たぬ僧侶や、子孫が来なくなって荒れ果てた墓地や、建物が崩壊しかけている寺院の惨状を克明に伝えてくれる。
 いや、待ってほしい。でもそれは寺の課題というより、人口減少の問題ではないのか。しかのみならず本書には「先祖の供養は大切だ」とか「お寺は地域の人々によって保護されるべきだ」という大前提が隠されてはいまいか。
 先祖供養はなくて良い、金のかかる葬式は必要ない、という考え方が注目を集めているのが「いま」である。著者のレポートは哀切だが、鵜呑(うの)みにしてはいけないな、と本の中ごろで気を引き締めた。
 だが、それはとんだ誤解だった。著者は僧侶のあまり芳しくない実態や、仏教界がすすんで太平洋戦争に協力したタブーなどにも果敢に斬り込んでいく。懸命に生き残りを模索する寺院・僧侶の活動例を紹介し、消滅にあらがう具体的な手立ても提案している。その責任ある叙述態度は、何者にも媚(こ)びず、何者にも依(よ)らず。みごとである。
 現代の仏教・お寺・お坊さんを題材として、これほど率直に実情を披陳(ひちん)し、考えさせる本はまたとない。人は死を避けることができない。本書を読んで、身近な人々の、それに自身の終焉(しゅうえん)について、ぜひ思いを巡らしてほしい。
    ◇
 日経BP社・1728円/うかい・ひでのり 74年生まれ。報知新聞記者などを経て日経ビジネス記者。僧侶。


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