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国際協調の先駆者たち―理想と現実の200年 [著] マーク・マゾワー

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年07月12日

[ジャンル]歴史 政治 社会

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■教科書的通史離れ、歴史を再構築

 ギリシャの近現代史や20世紀の欧州史を専門とする気鋭の歴史家として、数々の話題作を生み出してきたマーク・マゾワー氏の著書が、初めて邦訳された。ナポレオン後から現在まで、世界の平和を目指す理想と力の政治との間の緊張や補完が描かれる。
 カント、メッテルニヒ、ウィルソン、マルクス、ルーズベルトら哲学者や政治家の思想の潮流を読み解きながら、教科書的な通史を離れて国際協調の観点から再構築された歴史が新鮮である。
 一段とおもしろく読んだのは、二つの世界大戦の戦勝大国の支配を平和的に維持するために生まれた国際連盟、国際連合と、米国との関係をつづった後半部分だ。覇権国として、狭い意味での国益実現と世界統治のゲームのなかで、距離を定めていく。
 とりわけ第2次大戦後、米国は、最大出資する国連や世界銀行、国際通貨基金などを通じて、自国に有利な自由貿易や開発援助、金融のルールを拡散してきた。市民社会、すなわちNGOも統治に組み込み、一部には米情報機関の資金を流し、国際世論を動かす。人道介入や国際司法の現場では、大国と弱小国で人権や主権が「二重基準」だ。こうした仕組みが機能するのは、米国の「価値観」が世界の利益にかなうと多くが信じたからでもあるという。
 新興国が存在感を高め、価値観は多様化し、多国間の協調はより面倒になった。米国は外交の道具として魅力が減った国際機関とは距離を置く流れにある。いっぽう、台頭する中国は自ら主導し、国際金融機関の設立を急ぐ。動く秩序のなかで、越境する課題は増えている。力の均衡にとどまらない新たな統治の思想を生み出せるだろうか。
 国連設立70周年の今夏以降、著者の『国連と帝国』、20世紀の欧州史『暗黒の大陸』と邦訳出版が続く。誠実な歴史家は予言をしない。だが、将来への観望台を与えてくれる。
  ◇
 依田卓巳訳、NTT出版・4968円/Mark Mazower 58年、英国生まれの歴史家。コロンビア大学教授。


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