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世阿弥の世界 [著] 増田正造

[評者]宮沢章夫(劇作家・演出家)

[掲載]2015年07月12日

[ジャンル]アート・ファッション・芸能 新書

表紙画像

■「極北の演劇」が今、示すヒント

 能に興味を持ったのは、二十年ほど前だが、様々な演劇論を読む仕事のなかで、『風姿花伝』の面白さ、世阿弥という人物の魅力に出会って驚かされた。
 本書はその興味をより広げてくれる。
 能を「極北の演劇」と著者は記す。それが強く印象に残ったのは、人物の個性や系譜、社会的背景にまったく興味を持たない劇作法だと分析されるからだ。「男性そのもの」「女性の慕情そのもの」を抽象化して表現する。いま演劇の課題はそこにあると私は考えている。というのも、グロテスクな人物造形が、この国の現代演劇の主流としてあり、そこからどう遠ざかり、また異なる演劇を試みるかというヒントが本書にあるからだ。たとえば、死者が、生きる者と同じ空間に登場しても許される、世阿弥が発明した「夢幻能」はきわめて豊かな演劇的な領野だ。
 本書はそうした世阿弥の魅力を穏やかな筆致で語りかけてくれる。
    ◇
 集英社新書・821円


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