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中国環境汚染の政治経済学 [著]知足章宏

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年07月19日

[ジャンル]社会

表紙画像

■歓迎される汚染企業、構造探る

 中国の環境問題は依然として深刻だ。中国由来のPM2・5(微小粒子状物質)が日本にも飛来、話題となったのは記憶に新しい。中国では、女性記者がPM2・5問題を告発したドキュメンタリーがネット公開され、人々に大きな衝撃を与えた。企業は汚染を垂れ流し、成長優先の中で環境保護部はそれを取り締まろうとしない。結局、被害が集中するのは、弱い立場の市民だ。
 本書が読者を引き込むのは、こうした問題の根っこにある政治経済構造を掴(つか)み出そうとしているからだ。いま、北京・天津両市に隣接する河北省が中国最大の汚染源になっているという。2008年の北京オリンピックに向けて中国政府が強制的に閉鎖させた汚染企業がこぞって移転したからに他ならない。
 とりわけ鋼産業が集中、莫大(ばくだい)な量の石炭が基準を守らずに燃やされ、汚染物質がまき散らされている。河北省が汚染企業を受け入れる背景には、この地域の貧困がある。そうしてでも、彼らは所得と雇用を増やしたいのだ。おのずと環境規制は緩められる。
 しかも、経済成長に乗り遅れた省はどこも、汚染企業の誘致に熱心だ。彼らの間で環境規制の切り下げ競争が始まり、事態はますます悪化する。著者はこれを、「底辺への競争」と呼ぶ。汚染企業の製品の販売先は、実は日本を含めた先進国企業であり、中国の汚染がグローバルな産業連関の中で起きている問題であることも明らかにされる。
 では、どうすればよいのか。著者は、環境NGOの存在が決定的に重要だと指摘する。彼らは、汚染企業とサプライチェーンでつながる先進国企業の責任を提起することで、国際的連携の中で問題解決を図ろうとし、成果も上げつつある。
 中国環境問題の解決が、単なる技術問題ではなく、その政治経済構造の変革に直結する課題であることを明らかにした好著だといえよう。
    ◇
 昭和堂・2376円/ちあし・あきひろ 兵庫県生まれ。環境経済・政策学。京都大学アジア研究教育ユニット研究員。

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