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現代アジアの宗教—社会主義を経た地域を読む [編]藤本透子

[評者]柄谷行人(哲学者)

[掲載]2015年07月19日

[ジャンル]社会

表紙画像

■伝統の切断、力関係の逆転

 本書は、「社会主義を経たアジア地域の宗教」に関する、地域横断的な共同研究である。この地域の宗教は、イスラム、ボン教、上座仏教、シャーマニズムなど、様々であり、共通するのは、社会主義体制を経たという点だけである。むろん、そこにも違いがある。社会主義国家は一般に宗教に対して否定的であったが、全面的に禁止する場合、僧侶のみを禁止する場合、また、その政策が長期にわたる場合、短い場合など様々に異なる。
 この比較研究が示すのは、社会主義体制が宗教に関して、啓蒙(けいもう)主義的な近代化の役割を果たしたということであろう。たとえば、伝統的な聖職者・僧侶のシステムは否定されたが、概して、宗教は私的な信仰としては許容された。このような伝統の切断があったことが大きい。そのため、以後に再興された宗教は、新たな宗教だと見たほうがよい。
 たとえば、ミャンマーでは、上座仏教が復活したが、もとは出家者が中心であったのに、今や在家信者が中心である。モンゴルではシャーマニズムが復活したが、以前は修行が不可欠であったのに、今や誰でも簡単にシャーマンになれるようになった。また、中国・内モンゴルでは、キツネやイタチなど動物霊が憑(つ)くケースが多く、既存のシャーマンを悩ませている。また、カザフスタンでは、イスラム教が復活したが、それは先祖信仰と結びついている。したがって、中東のイスラム教とは異質である。
 本書で報告された各地の変化はそれぞれ興味深いが、中でも、モンゴルのシャーマニズムが衝撃的である。ここでは、ある者に位の高い霊が憑依(ひょうい)すると、その者の位も高くなるので、旧来の力関係が逆転してしまう。しかも、シャーマンが急増し、総人口の1%近くになる。すると、これはシャーマニズムによる文化大革命なのかもしれない。
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 春風社・4536円/ふじもと・とうこ 国立民族学博物館助教。『よみがえる死者儀礼』『カザフの子育て』。

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