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世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠 [著]ジョセフ・E・スティグリッツ

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年07月26日

[ジャンル]経済 社会

表紙画像

■格差見つめる冷静さと温かさ

 本書は、ノーベル経済学賞を受賞した米国の碩学(せきがく)による現代資本主義への深い憂慮の書である。大きな話題となったピケティ『21世紀の資本』が1980年以降の格差拡大を証明したことに、スティグリッツは深く同意する。もっとも、ピケティが強調するように、格差拡大傾向は確かに資本主義の本性だが、70年代までは経済的規制と高度な累進税制、そして平等な社会が、高度経済成長と両立しえた。
 しかし、レーガン政権の成立した80年代以降、規制緩和、金融自由化、そして累進税制の「フラット化」により、資本主義は大きく変質した。起きたのは、不平等の顕著な拡大と経済の金融化だ。その果てに、バブルの生成と崩壊を繰り返し、格差を常に拡大させる社会が生まれた。所得から消費に回す比率が小さい富裕層に富が集中した結果、GDPの最大項目である民間消費は落ち込み、資本主義は著しく不安定化した。
 資本主義の再生に重要なのは、「機能する政府」だ。富裕層に課税し、弱者に対するセーフティーネットを強化し、教育と技術とインフラへの投資を増額しなければならない。それが、未来を引き寄せる鍵だ。
 本書では彼の「原点」が語られる。とりわけ「キング師がわたしの研究に与えた影響」と題する格調高く美しい一文は、我々に感銘を与える。人種差別、貧困、社会的不公正への怒り、問題意識を育んだ彼の生い立ち、人種統合を目指した学生時代、社会問題解決のために物理学から経済学に転じたこと……。
 彼は何よりも、大統領経済諮問委員会の長、世界銀行チーフエコノミストなどへの奉職を通じて、社会的公平性のために闘ってきた。スティグリッツこそ、近代経済学の祖であるマーシャルが理想とした「冷静な頭脳と温かい心」の絶妙な結合の見本であり、我々は、現代における最良の経済学者の姿をここに見出(みいだ)す。
    ◇
 峯村利哉訳、徳間書店・2268円/Joseph E. Stiglitz 43年生まれ。01年ノーベル経済学賞。コロンビア大教授。

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