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正義のゲーム理論的基礎 [著]ケン・ビンモア

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2015年07月26日

[ジャンル]社会

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■最適な選択重ね、公平に達する

 人びとが共存するには、限られた資源をどう分け合うかを決める必要がある。分け方のルールは、公平と見なされなければ長続きしない。人びとは、公平と思えるルールにいかにして到達するのか。
 カントは、自分にしてもらいたいように相手にもせよという内容の「定言命法」を人びとが受け容(い)れることに期待したが、ビンモアはデイヴィッド・ヒュームを引きつつ、そうしたやり方はうまく行かないとする。
 彼によれば、お説教などなくても、人びとがさまざまな条件の下で、各自に最適と思われる選択を繰り返して行くうちに、やがて公平で効率的な均衡に達するのである。こうした自らの立場を彼は進化倫理学と呼ぶが、ここでの進化とは、人間の遺伝子にかかわる生物学的な進化よりも、ルールが次第に形成されるという文化的・社会的な進化を指している。
 一定の条件下で各プレーヤーが選択をすると、どのような結果になるかを記述するのがゲーム理論である。これを駆使しつつ、互恵性など、人間に固有の属性として抽象的に論じられてきたものが、動物の行動とも連続的な形で数理的に説明できることをビンモアは示そうとする。
 ジョン・ロールズは、各人が自らの社会的な地位や資産状況、能力などを知らない「原初状態」を想定する。そして、そこで各人が自己利益を図ろうとすれば、誰もが自分が実は「最も不遇な」人になる危険性を考え、弱者に優しい配分ルールを選ぶだろうと主張した。ビンモアは、ロールズのモデルをさらに精緻(せいち)化した上で、右のような選択が机上の空論どころか、あらゆる所で人びとが実際に行っている選択と符合するという。
 個人の自己利益と自発的な選択から出発しながら、競争的な市場を絶対化するハイエクらとは逆に、平等主義的な合意の可能性を導き出す興味深い一冊だ。
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 栗林寛幸訳、NTT出版・4536円/Ken Binmore 40年生まれ。ロンドン大名誉教授(経済学)。数学者から転身。

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