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レノンとジョブズ 変革を呼ぶフール [著]井口尚樹

[評者]細野晴臣(音楽家)

[掲載]2015年08月02日

[ジャンル]社会 ノンフィクション・評伝

表紙画像

■破格の「大愚」に通じる文化の髄

 智恵(ちえ)のシンボルである林檎(りんご)を、かつて2人の有能な「フール」が取り合った。今や伝説のビートルズのジョン・レノンと、アップルの創設者スティーブ・ジョブズである。ビートルズのアップル・レコードが商標権を主張し、米アップル社を訴えたのだ。
 ビートルズやアップルが生まれたのは、チャック・ベリーら、それ以前の「ロックンロール」世代が活発だったからだという。彼らは、元気で賑(にぎ)やかでクレージーだった。なるほど、この指摘はぼくにとって新鮮であった。レノンら第2次大戦中の1940年から45年までに生まれた多くの才能を本書で見ると、彼らに伝搬した先行世代の影響力の大きさがわかる。
 さらに、ビートルズの後期に制作された不思議な映画「マジカル・ミステリー・ツアー」の元ネタも、先行世代や「ビートニクス」にあると解き明かす。そもそもレノンがオノ・ヨーコと出会い、ジョブズが禅に傾倒していたことも、ビートニクスからヒッピームーブメントへと受け継がれて育った「カウンターカルチャー(対抗文化)」の影響が濃厚だったからだ。そしてそこには、日本の禅や俳句がひっそりと介入していた。
 敗戦後の日本に生まれ育ったぼくは自分が今どこに立っているのか思いを巡らすが、こうしてみると、確実にビートニクスから波及した流れの中にいることを感じる。だが現在の日本のカルチャー、特に音楽の中にその流れは感じられない。そのことが気になって仕方がないのだが。
 本書は今更ながらのレノンとジョブズに光をあて、共通項や背景を探る形で、彼らが今更どころか破格の「大愚」であることを明らかにする。欧米のロックとパソコンという今時っぽい糸口から、日本の禅に入り込んでゆく語り口は軽妙で、カウンターカルチャーの神髄にとどまらず、日本の精神に触れるまたとない楽しみを提供してくれる。
    ◇
 彩流社・1944円/いぐち・なおき 52年生まれ。芸術新聞社編集委員。1920〜30年代のモダン東京を研究中。

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