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路地裏人生論 [著]平川克美 [写真]高原秀

[評者]

[掲載]2015年08月02日

[ジャンル]文芸

表紙画像

 ささやかな町工場を経営していた父の、指のしわまで油がしみこんだ武骨な手の記憶。工業地帯を流れていたどぶ川へと、どこからか泳ぎついた雷魚に驚いた少年期の記憶。かつて遊郭街だった洲崎で出会った亀の、微動だにしない姿が呼び起こす、その土地の記憶……。
 初老の著者は、母を見送り、介護を経て父を見送ったのちに、自らの死が視野に入ってはじめて「末枯(すが)れた路地裏や、暗雲が垂れ込める殺風景な河川の光景」に目が留まるようになったという。濃厚な輪郭を持ち始めた風景をむさぼり見るように街をさまよい、想起する記憶の断片を言葉にすることで、確かに存在した人々や時代の刻印を試みた。
    ◇
朝日新聞出版・1512円

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