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暴力と適応の政治学 インドネシア民主化と地方政治の安定 [著]岡本正明

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年08月02日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■「やくざ」社会を体張って考察

 インドネシアの世論を二分した大統領選挙から1年になる。軍や政治家一族ではない庶民派として、地方政治家からのぼり詰めたジョコ・ウィドド氏の当選は、民主化の定着と安定を示す象徴とも持ち上げられた。いっぽうで、過去の体制から続くカネと暴力にまみれた非民主的な勢力の特権を、温存したからこその安定との指摘がある。
 スハルト独裁政権の崩壊から17年。2億5千万人という人口を抱えて民族、宗教ともに多様な大国、インドネシアの民主化はほんものか——。
 本書は、独立を宣言した1945年から現在まで、バンテンというジャカルタの隣の地方を舞台に、カネと暴力、そして民主化に伴う分権化を基盤とした安定のメカニズムを分析する。細分化された自治体への権限移譲が地方政治を安定させたことを示していく。各章の扉には20年来のフィールドワークをいかした写真や読みやすいコラムを配し、本文にももりこまれた個人的な経験が興味深い。
 調査の重要な対象は、「ジャワラ」と呼ばれる暴力集団、いわゆる「やくざ」。露天商の配置、土地紛争から選挙まで裏に表に利権を差配する「民主社会」のプレーヤーだ。著者は好奇心をたぎらせ、体を張って飛び込む。
 あるときは、地元やくざ主催の交流会でインドネシア風ムード歌謡にあわせて若い女性と舞台で踊る。あるときは、霊界と携帯電話で交信でき、銃で自分の手を撃っても平気だと言う拳術の達人やくざとお茶を飲む。
 著者は汚職や暴力がはびこる民主主義を肯定はしないが、「政治に万能薬はない」として切り捨てもしない。反汚職運動に踏み出した独立委員会、NGOやメディアなど市民社会の変化を紹介しながら、次へ向かう希望をみる。
 民主主義って何だろう。そんなことを問い直す機会が増えた夏、息長く、視角を広げて考えようと思わせる本だ。
    ◇
 京都大学学術出版会・3888円/おかもと・まさあき 71年生まれ。京都大学東南アジア研究所准教授。

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