書評・最新書評

「聖戦」の残像—知とメディアの歴史社会学 [著]福間良明

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年08月09日

[ジャンル]歴史 社会

表紙画像

■迫力映像が変える戦争の「リアル」

 スティーブン・スピルバーグの映画『ジュラシック・パーク』を観(み)た時、多くが「恐竜が本物っぽくて驚いた」と感想を述べた。これは実はおかしな話だ。誰も本物の恐竜を見たことはないのだから。
 そんな話を枕にして著者は終戦60周年の2005年に公開された『男たちの大和』を論じ始める。原寸大のロケセットと高精細なCGを使い、当時では破格の25億円の製作費を掛けたその映画も戦争をリアルに再現したと評判を呼んだ。だが、その評価は果たして妥当だったのか。
 たとえば本当の戦場では僅(わず)か数センチの立ち位置の差で生死が分かれる。こうした偶然と恣意(しい)に強く支配された戦争の不条理は、「男同士の絆」の確かさを感動的に描く映画の中でむしろ隠蔽(いんぺい)されてしまうと著者は考える。
 にもかかわらず、特に人口の大半を占めるようになった戦争非体験世代にとっては、巧みな演出と迫力溢(あふ)れる映像で描かれた戦争の物語(シミュラークル)がリアリティの水準を変えてしまう。ジュラシック・パークと同じ構図だ。
 戦後70年の節目となる今年もまた戦争関係の映画や番組などの企画が多く組まれる。折しも国会では安保法制が審議中でもあり、戦争と平和について、正義や犠牲の在り方を巡って、いつにも増して意見が百出しよう。だが戦争のリアリティ自体が書き換えられてゆく中で、深く、普遍性ある議論が果たして可能なのかは気になるところだ。
 その点、本書は、先に引いた戦争映画論以外にも「聖戦」を演出した戦時中の戦争博覧会の考察や『はだしのゲン』が戦後の平和運動の「正典」となる過程の分析などを集め、論文集だからこそ多彩な視点と論点が示された。描かれた戦争像がいかに自分たちの戦争観を変化させてきたか。それを意識しつつ戦争について考え、語る。冷静な議論に不可欠な「相対化」の視点を学ぶ優れたテキストとなろう。
    ◇
 人文書院・3888円/ふくま・よしあき 69年生まれ。立命館大学教授(歴史社会学)。『二・二六事件の幻影』など。

関連記事

ページトップへ戻る