書評・最新書評

武器ビジネス—マネーと戦争の「最前線」(上・下) [著]アンドルー・ファインスタイン

[評者]吉岡桂子(本社編集委員)

[掲載]2015年08月09日

[ジャンル]社会

表紙画像

■秘密主義の闇、かき分ける執念

 執念に満ちた力作である。
 原題は『THE SHADOW WORLD(影の世界)』。戦争や紛争に影のようにつきまとう武器の取引は、安全保障の名のもとで国家権力に覆い隠されるだけでなく、武装勢力やテロ組織など非公式な集団の暗闇にあって見えにくい。「金と腐敗と欺瞞(ぎまん)と死のパラレルワールド」では、合法と非合法の境目があいまいで、あやしげなディーラーも暗躍する。
 この本は、その闇をかき分けて、誰がどのように携わり、利益を得て、その果てに起きている現実を説き起こすことに挑んだノンフィクションだ。南アフリカの国会議員だった著者は、同国軍の武器購入をめぐる収賄事件の調査を上層部から止められたことに抗議し、2001年に辞職する。その後、10年以上かけて集めた数十万ページの記録や公文書をもとに執筆した。
 舞台の中央にいるのは、英米だ。
 世界的な軍需大手、英BAEシステムズが大口顧客であるサウジアラビアの契約を得ようと、王族に賄賂をおくった疑惑をめぐる記述はドラマを見るようだ。80年代のサッチャー政権下での戦闘機の取引にかかわる贈収賄事件は、司法やメディアの手で表面化したものの、ブレア政権の06年、捜査は打ち切られた。その後の展開を含めて、この世界の真実に迫ることの困難さを思い知る。
 さらに、第2次世界大戦を経て生まれた米国の「軍・産業・議会」複合体が、「回転ドア」と呼ばれる天下りシステムで巨大な力を拡大しながら、世界の紛争に油を注いで稼ぐ姿が丹念に描かれる。
 著者は、武器取引につきまとう秘密主義は、腐敗や国家安全保障上の不適切な選択をも「おおい隠す」と指摘する。読み終えて、「武器輸出三原則」を昨春に撤廃した日本を思った。このぬかるみにひきずりこもうとする力は、どこから来たのだろうか。
    ◇
 村上和久訳、原書房・各2592円/Andrew Feinstein 64年、南ア生まれ。同下院議員の後、英国で執筆活動。

関連記事

ページトップへ戻る