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「山怪―山人が語る不思議な話」書評 慌てふためくのは人間だけ

評者: 朝日新聞読書面 / 朝⽇新聞掲載:2015年08月16日
山怪 山人が語る不思議な話 1 著者:田中 康弘 出版社:山と溪谷社 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784635320047
発売⽇: 2015/06/05
サイズ: 19cm/252p

山怪―山人が語る不思議な話 [著]田中康弘

 狩猟や木材など山関係の仕事をしている人たちが山で遭遇した不思議な出来事、怪しい現象、それも昔話ではなく実際に見聞きした本人から聞き取った話である。人を化かす動物といってもキツネは川魚など生臭いものが好き。タヌキは伐採の音をまねるが、時代の流れで斧(おの)からチェーンソーに変えているというのも面白い。たわいない話ばかりではない。あるはずのない道ができ、壁が現れて「山が変」な怖さもある。おしなべて山の怪異は「静」で、「慌てふためいて動き回るのは人間だけ」と著者は考察する。山の夜の闇への恐怖ゆえでもあろう。しかし山で生活する人が減り、山怪話も「絶滅危惧種」だというのはなんだか寂しい。
    ◇
 山と渓谷社・1296円