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たまたまザイール、またコンゴ [著]田中真知

[評者]中村和恵(詩人・明治大学教授・比較文学)

[掲載]2015年08月16日

[ジャンル]歴史

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■命がけの旅、許す意味を悟る

 文字通り命がけ、でも呆然(ぼうぜん)とするほどのんきで愉快な、実践哲学的コンゴ河旅行記。
 1991年当時、著者夫婦が住んでいたエジプトの政情不安が高まり、旅行でも、とモブツ独裁政権下のザイール(現コンゴ民主共和国)へ。クルーズ船に乗るはずが、姿を現したのは乗客5千人超のはしけ船。甲板に熱帯雨林の動植物と人間があふれ、トイレのドアには体長1メートル級の鰐(わに)と豚がつながれている。
 しかも2人はその船を途中で降りて、丸木舟を1カ月漕(こ)ぎ河を下る。ボート歴は都内の公園で1時間の著者、最初はホテイアオイと共にただ流れゆくのみ。蚊の猛攻でマラリアに罹(かか)り、川沿いの電気も水もなく医者もいない村に泊まって、笑われたり助けられたり。奥さんも泣くよね。
 2度目の旅は国名も河の名もモブツの勝手な命名によるザイールからコンゴに戻った2012年、日本人のシンゴ君やガイドのオギーらとまた丸木舟。「こんな旅するの、バカですよ」というシンゴ君、まさにね。21年を隔てた2度の珍道中に大笑いするうちに、コンゴ紛争の正体が豊かな天然資源を奪い合う「世界戦争」であること、植民地支配と産業構造の問題、日本の支援のあり方など、複雑でハードな話が整理され、するする頭に入ってくる。
 東隣のルワンダで起きた大虐殺の余波を契機とする紛争でついにモブツ政権は崩壊、その後の泥沼化でコンゴは540万人の犠牲者を出した。2度目の丸木舟は軍人の厳しい審査や役人の賄賂要求の中を進む。一行は交渉や演技、ときにはナマズ料理で接待と「外交戦略」で切り抜ける。
 どうしようもないことばかりの旅で、怒りと心配の連続の後、著者は悟る。「世界は偶然と突然でできている」。どこだっていつだって未来は不確かなのだ。だから、ゆるす。今日もあては外れた。「でも完璧な一日だった」。そう思えればいい。うん。
    ◇
 偕成社・2484円/たなか・まち 60年生まれ。作家・翻訳家。『アフリカ旅物語』『美しいをさがす旅にでよう』など。

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