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声―千年先に届くほどに [著]姜信子

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年08月16日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■生命を響かせる気迫鮮烈

 たとえば漂泊を続ける朝鮮民族の末裔(まつえい)たち、あるいは戦争や公害の犠牲となった沖縄や水俣の人たち。艱難辛苦(かんなんしんく)に象(かたど)られた彼らの「声」を訪ねて聴いた、それ自体が一篇(ぺん)の長い詩のような旅行記。
 特に紙幅が多く割かれるのが終生隔離を強いられた元ハンセン病者の文人との交わりだ。自らを土に埋もれた石と見立てた「魂の俳人」村越化石。自らを蝕(むしば)む諦めに鉈(なた)を振り下ろした「詩の鬼」谺(こだま)雄二。雪深い草津の療養所で著者を交えた句会が突如始まる。
 文字の言葉は紙に載り、書いた人の手を離れて漂う。声は発した人から離れないから声の主が死ねば声も死ぬ。しかし今や故人となった化石と鬼の生命の「声」を著者は千年後まで響かせようとする。
 むろん自らが身代わりになって彼らの人生が語れるわけではない。それでも哲学者ウィトゲンシュタインの定言を逆立ちさせて「語りえないことだからこそ語られねばならない」と書く。圧倒的な背理を生きようとする気迫が鮮烈だ。
    ◇
 ぷねうま舎・1944円

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