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不確かな正義―BC級戦犯裁判の軌跡 [著]戸谷由麻

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年08月16日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■法守らず責任回避の実態を分析

 各国が行ったBC級戦犯裁判の資料を精読し、それにもとづいての見解を英書として刊行、その後日本語訳として世に問うた。米英豪比など各国の資料が、太平洋戦争下の日本軍将兵の非人道的実態をどのように捉え、いかに裁いたかが理解できる。
 戦時下で個人の責任はどのような形で問えるのか、初めにその責任論を「指令統制責任論」と規定する。この訳が適切か否かも著者は読者に問うている。本書はBC級戦犯裁判(各国合わせて特別設置場所51、実施された裁判2244件、裁かれた容疑者5700人)研究の中ではよく引用される山下奉文、本間雅晴らの法廷を始め、やはり捕虜虐待に問われた俘虜(ふりょ)情報局長官の田村浩、さらに高級指揮官たちの裁判を個々に分析していく。たとえばバターン死の行進などで裁かれた本間は、自ら証言台に立ち、「捕虜取扱いが行き届かなかった責任は、自分ではなく日本政府にある」と弁明する。確かに本間は捕虜処遇の改善を何度も中央に要請している。
 著者は自身の問題提起として、日本軍の「上官・部下」の実体は法律上とはかなりの差があると指摘している。権力の形骸化が起こり、上官が事態を抑えきれないケースもあった。同時に部下に責任を押しつけて責任回避する上官もいた。開戦後、日本は連合国各国からジュネーブ捕虜条約を守るかと照会を受けている。日本は調印していたが批准はしていなかった。結局、拘束受けざるも準用すると回答したが、実際には守っていない。東條英機首相の頑(かたく)なな態度などが「捕虜虐待の恒常化に一因」との指摘は重要である。
 マッカーサーの米国側から裁判を引き継いだ比政府は、「比島方面の日本帝国軍総司令官」だった黒田重徳を裁くが、「法の支配や公明正大の理想をより納得のいく形で実現した」との分析は鋭い。改めてアジアでの戦争責任を自覚させられる。
    ◇
 岩波書店・3456円/とたに・ゆま 東京生まれ。ハワイ大マノア校歴史学部准教授。著書『東京裁判』。

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