書評・最新書評

独りでいるより優しくて [著]イーユン・リー

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2015年08月23日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■不信と孤独の連鎖を凝視する

 解決しない事件が、それに関わった人たちの人生を変えてしまい、生き方を縛りつける。米国に住み英語で執筆を続ける、中国出身の作家イーユン・リーの長編『独りでいるより優しくて』は、人間の孤独と向き合う小説。孤立の状態を選ばざるをえない生き方とその経緯を、冷徹な筆致によって凝視する。
 少艾(シャオアイ)という名の女子大生が、何者かに毒を盛られ、深刻な後遺症を抱えることになる。毒は大学の化学研究室から盗まれたものとわかる。三人の高校生たち、泊陽(ボーヤン)、黙然(モーラン)、如玉(ルーユイ)の誰かが犯人と思われる状況の中、事件は迷宮入りに。友人だった三人は事件を機に離散。それから二十一年後、ついに少艾は亡くなる。三十代後半になっている三人のうち二人が再会し、真相の一端が明らかとなる。
 三人は、一九八九年、天安門事件の年に高校一年生という設定。少艾は民主化運動に関わり、周囲に波紋を起こす。とはいえ、そのことと毒混入事件は、単純に直結するわけではない。そして、この小説の視点の鋭さはまさにそこに宿る。なぜなら、それによって、この小説は特定の場所や時代による限定を抜け出て、普遍的な構図を得ることができているからだ。
 つまり、未解決事件が与える疑心暗鬼の状態、人々があえて自身を一種の隔離状態に置いて生きるとはどういうことか、読者がさまざまな立場から思い描けるように書かれているといえる。「最悪の闘いは純真な者たちの間で起こる、と如玉は思った」。
 著者はこの作品で、不信と孤独の連鎖を炙(あぶ)り出してみせた。糾弾の視線を交えずに淡々と。小説においては、糾弾や告発よりも、凝視の方がずっと有効だ。凝視は、読者に対しても、そこに描かれている出来事をじっと観察する余地を与えるからだ。この小説には、短絡的な希望は描かれていない。そして、その方法にこそ希望があるのだ。
    ◇
 篠森ゆりこ訳、河出書房新社・2808円/Yiyun Li 72年、北京生まれ。作家。『千年の祈り』など。


関連記事

ページトップへ戻る