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ネアンデルタール人は私たちと交配した [著]スヴァンテ・ペーボ

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年08月23日

[ジャンル]科学・生物

表紙画像

■現生人類と恋?太古に思い馳せ

 ネアンデルタール人は、約40万〜30万年まえに出現し、3万年ほどまえに地球上から姿を消した。我々現生人類とも、「ご近所さん」として暮らしていた時期がある。
 ネアンデルタール人と現生人類(ホモ・サピエンス)は、どんな仲だったのだろうか。つまり、交際(?)して、両者のあいだに子どもができることはあったのか、ということだ。生物学者である本書の著者は、ネアンデルタール人のゲノム解読に挑んだ。ネアンデルタール人の骨からDNAを抽出し、塩基配列を調べたのだ。
 結果は、書名のとおりだ。ネアンデルタール人のDNAは、現生人類に受け継がれている。両者のあいだに、確実に子どもは生まれていた!
 専門的な内容も含まれており、詳しいことは私には到底説明できないので、ぜひ本書をお読みいただきたい。読み物としても非常におもしろいので、(私のような)門外漢でも、「へえ!」と興味を持てる内容だ。ネアンデルタール人のDNAを抽出する際には、他の(たとえば研究者の)DNAが混入してはいけないので、クリーンルームでの作業が要求される。完璧なクリーンルームを渇望する著者の情熱は余人には計り知れぬものがあり、「そこまで……」と、読んでいておかしかった。また、著者自身の恋愛事情も、かつてのネアンデルタール人&現生人類に負けず劣らず複雑かつ活発な様相を呈しており、「バイタリティーあるな」と感心した。憎めない人柄が伝わってくる好著で、こういうひとだからこそ大きな発見に漕(こ)ぎ着けられたのだと納得する。
 ネアンデルタール人がなぜ絶滅したのかは、まだわかっていない。だが、我々のなかに、かれらの痕跡はわずかながら残っている。現生人類とのあいだで恋が芽生えるような、平和的関係であったのならいいのだがと、遠い過去へと思いを馳(は)せた。
    ◇
 野中香方子訳、文芸春秋・1890円/Svante Paabo 55年生まれ。ドイツの進化人類学研究所の生物学者。


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