書評・最新書評

鈴木さんにも分かるネットの未来 [著]川上量生

[評者]武田徹(評論家・ジャーナリスト)

[掲載]2015年08月30日

[ジャンル]IT・コンピューター 社会

表紙画像

■理詰めで解説、先行くヒント

 著者はニコニコ動画で急成長したネット企業の経営者でありながらスタジオジブリの見習社員となった。その入社時に師匠の鈴木敏夫プロデューサーから「ネットとはなにか」をネット事情に疎い自分にも分かるように書けという宿題を出されたという。
 「答案」である本書の価値は、しかし、分かりやすさだけにとどまらない。従来のネット論では「ビジネス的なご都合主義が未来への理想主義に装いを変え」「イデオロギー的な主張にすぎないことが、科学的な真実であるとして喧伝(けんでん)され」ていた。そう考える著者は臆見を排し、事実に基づく論理的な議論に徹する。
 たとえば書籍の未来を論じた章では現在の電子書籍の弱点が技術的に解決可能である以上、紙の本が電子書籍に代替されてゆくのはもはや時間の問題と断じる。動揺する「紙の本好き」の感情を置き去りにするかのようにどんどん先に進んでゆく筆致には一見、冷たい印象も伴うが、読み込むと論理的必然を明示することで逆に未来の改変可能性を際立たせる論法に気づく。
 電子書籍の時代にはアマゾンとアップルがコンテンツを流通させる仕組み(プラットフォーム)を寡占する確率が高い。それは現在のネット界の勢力図から導かれる論理的必然だ。ではその時に職業作家や既存出版社はどうなるのか。内容が刻々と変わる動的コンテンツで、そのデータ利用権に対して課金するスタイルがネット時代には有利だと著者は考える。それはニコニコ動画で経験的に学んだことか。あるいは魅力的な作品を有するコンテンツホルダー自身がプラットフォームを持つと強いとも書く。こちらは任天堂の前例がある。
 こうして紹介される事例や著者の理詰めの分析を更なる独創をもって乗り越えた者がネット社会に新しい地平を開くのだろう。未来に手を差し伸べるヒントが満載されている、その意味では心優しいサービス精神に満ちた一冊だ。
    ◇
 岩波新書・972円/かわかみ・のぶお 68年生まれ。KADOKAWA・DWANGO社長。『ニコニコ哲学』など。

関連記事

ページトップへ戻る