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権力の終焉 [著]モイセス・ナイム

[評者]杉田敦(政治学者・法政大学教授)

[掲載]2015年09月06日

[ジャンル]社会

表紙画像

■三つの「革命」で変容した社会

 国家権力による安全保障の強化や経済への介入が声高に語られるいま、われわれは、権力はより集中し、強まっていると考えがちだ。しかし、著者ナイムによれば、この認識は誤りで、権力はあらゆるところで分散し、衰えつつあるのである。
 何らかの「参入障壁」を設けて対抗者を排除し、既得権を守ることに著者は権力の本質を見いだす。20世紀までは、主権国家や大企業のように規模が大きく、効率的な官僚制的組織をもつ主体が、この点で圧倒的に優位であった。
 ところが、いまでは小規模な主体が大組織の「邪魔をし、弱らせ」「封じ込め」たりすれば勝てるようになってしまった。その背景にはITなどのテクノロジーの変化に加えて、社会的な三つの「革命」があったという。
 第一に、最貧国でさえ貧困が相対的に減少し(「豊かさ革命」)、政府の言うことをきかない中間層が生まれた。「アラブの春」も、この結果である。第二に、ヒト・カネ・モノ・情報の移動の増加(「移動革命」)に伴い、囲い込まれた国民を管理する主権的な権力は陳腐化した。第三に、より豊かで移動可能な人びとは、従来の価値観を疑い、権威や権力に挑戦するようになる(「意識革命」)。
 結果として、政治の世界では求心力がなくなり、政権は短命となり、単独政権は減る。在来政党は没落し、小規模な政治集団が勢いを増す。単なる武装勢力が軍事大国を悩まし、大国の政治的影響力は低下する。経済の世界でも、新興企業が大企業を駆逐し、企業トップもすぐにその座を奪われる、というのである。
 こうした権力の分散は、社会をより多元的で自由にする半面、無政府状態にもつながりうると著者は憂慮し、政党改革などいくつかの提案を行う。しかし、著者が活写する権力の変容は、むしろその現象の不可逆性を示しているようにも思われてくる。
    ◇
 加藤万里子訳、日経BP社・2160円/Moises Naim カーネギー国際平和財団特別研究員。『犯罪勝者.com』

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