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新宿二丁目の文化人類学—ゲイ・コミュニティから都市をまなざす [著]砂川秀樹

[評者]星野智幸(小説家)

[掲載]2015年09月06日

[ジャンル]人文 社会

表紙画像

■無名のパイオニアたちの歩み

 急速に反動化する最近の日本社会の中で、性的少数者の権利については、渋谷区が同性愛者のカップルを結婚相当と認める条例を作るなど、比較的改善が進んでいる。
 この背景には、同性カップルの姿が次第に特別なものではなくなり、普通のこととして受け止める人が相対的に増えたことがあるだろう。当事者の側からすれば、それは大きなリスクと心理的葛藤を乗り越えて、同性愛者であることを隠さない生き方を選ぶ人が増えたことを意味する。
 この変化を、新宿二丁目という日本を代表する「ゲイ・タウン」が、この20年前後で「ゲイ・コミュニティ」へと変質していく過程として研究したのが、本書だ。
 コミュニティ化とは、私なりの理解で言えば、その街、その共同体を、自分のアイデンティティを保証する場と感じるようになること。例えば、ゲイは昼間はゲイであることを隠して生き、夜、二丁目のゲイバーにいる時間のみ自分らしくいられるという意味で、自己が引き裂かれている。それが、二丁目を自分の属するコミュニティと感じることによって、昼の時間でも、ゲイである自分という一貫したアイデンティティを保てる。
 特に、そのような感情が多くのゲイの心に生まれた瞬間である、レインボー祭りをめぐる第1章の証言と考察からは、自分を肯定することの歓喜が伝わってきて胸を打つ。そこには、同性愛が交換不能な「性的指向」であると認知されることも重要だった。
 著者は文化人類学者であると同時に、当事者として、東京レズビアン&ゲイパレードの責任者を長く務めるなど、二丁目のコミュニティ化を大きく推し進めた人でもある。繊細で血のかよった画期的な民族誌を実現できたのは、今を作り上げてきた無名のパイオニアたちを記録に残しておきたいという情熱だろう。都市論としても優れた本書の魅力は尽きない。
    ◇
 太郎次郎社エディタス・3240円/すながわ・ひでき 66年生まれ。共編書に『カミングアウト・レターズ』。

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