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伊勢神宮とは何か [著]植島啓司 [写真]松原豊 神都物語 [著]ジョン・ブリーン

[評者]五十嵐太郎(建築批評家・東北大学教授)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■変容続ける聖域、国家との関係も

 20年に1度建て替えの儀式を行う伊勢神宮は、いつも新しい現代建築であると同時に古代を想像させる特殊な建築だ。そしてミステリアスな存在ゆえに、各ジャンルの論者を様々な解釈に誘う。建築からは、磯崎新、川添登、井上章一、丸山茂の刺激的な論が登場した。宗教人類学の植島啓司の新刊『伊勢神宮とは何か』は、床下の心御柱(しんのみはしら)をめぐって、機能にこだわる建築学とは異なり、根源的な宇宙軸だという見解を示した。この本は神域、近郊の神社、川や湾などのフィールドワークをもとに論じたエッセイで、伊勢の神々は海からやってきたのではないかという。
 実は明治以降、伊勢神宮の意味は劇的に変容してきた。ジョン・ブリーンの『神都物語』は、国家との関係から、伊勢神宮が歴史的にどう受容され、周辺のエリアがどう変化したかを論じる。明治期は、意外だが、歴史上初めて天皇が伊勢を参拝し、王政復古を権威づけ、立ち入り禁止の空間を増やし、清々(すがすが)しい神苑(しんえん)のイメージをつくり、各地域とつなぐ御師(おんし)を廃止した。一方で江戸時代のような庶民に親しまれた巡礼地ではなくなっていく。内宮(ないくう)と外宮(げくう)が位置する宇治山田では仏教を完全に排除する計画がたてられ、仏教的な地名が変更された。大正・昭和時代は、1929年の式年遷宮を国民儀礼として演出し、外苑に各種の文化・運動施設を建てる宇治山田の「大神都聖地計画」が持ち上がった。戦後は一転して宗教法人となり、国家と切り離されるが、国会の議論などを通じて、再び公的な性格を獲得しようとする。90年代はおはらい町の修景、おかげ横丁の開発、ブランド化の戦略が起き、2013年は安倍首相が戦後初の遷御(せんぎょ)参列をした。
 伊勢神宮は「永久不変」のイメージをもつが、遷宮を機に「常に変容する新しい存在」なのだ。例えば、1904年、木材の入手が困難で、これからは文明開化にふさわしいコンクリート造りにするという案が明治天皇に提出されたという。結局、材料は変わらなかったが、そのイメージは一定ではない。興味深いのは、本書が各社の新聞、週刊誌、教科書、神宮の広報など、戦前戦後のメディアにおける記述を分析していることだ。朝日新聞についても、1953年、73年、93年の式年遷宮に関連した記事の内容と量、用語や写真の使い方、掲載面、座談会企画などを軸に比較し、その変化を探り、聖なるイメージが再び浸透していることを指摘する。
 神宮を訪れても隠された場所が多く、正殿は幾重もある垣根越しに屋根の先端の千木(ちぎ)や堅魚木(かつおぎ)がわずかに見えるだけだ。直接見えないからこそ、想像力をかきたて、メディアが重要になるのだろう。
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 『伊勢神宮…』集英社新書・1512円/うえしま・けいじ 47年東京都生まれ。京都造形芸術大教授。まつばら・ゆたか 67年三重県生まれ▽『神都物語』吉川弘文館・1836円/John Breen 56年ロンドン生まれ。国際日本文化研究センター教授。

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