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わたしの土地から大地へ [著]セバスチャン・サルガド、イザベル・フランク

[評者]大竹昭子(作家)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■都市と異なる視座、問いかけ

 サルガドの写真がすごいのはわかる。ブラジルの金鉱掘り、ルワンダの難民、大規模製造業の手仕事、自然保護区の生態系。地球的規模で撮影された写真は一目で記憶に焼き付くほど強く、世間の高い評価を得ている。だがその評価を少しばかり疑う気持ちも私の中にはあるのだ。
 一九四四年、ブラジルに生まれ、軍事政権下で抗議活動をしてパリに亡命。経済学者から写真に転向し、以来パリを拠点に活動している。
 家はブラジル内陸部の谷で農園を経営していた。風景は大きく、光は多彩で、移動は徒歩しかない。金持ちも貧乏人もいない自給自足生活。大自然のなかで人が調和ある暮らしをしていた光景が、彼の記憶の根底を支えているのがわかる。
 写真は声の小さい揺らぎやすいメディアだという認識を私は持っている。それを思うと彼の写真は言葉に接近しすぎのように思えたが、これはもしかしたら彼と私の視覚体験の違いのためかもしれない。現実を写し撮る写真では撮り手の視座が周囲の現実に左右される。動きが静止した彼の構図は大自然の中で人の動きが小さく見えることと無関係ではないし、地球的規模の撮影も故郷で長距離移動してきた身には親しい。貧困問題に敏感なのも南半球出身の知識人なら当然だし、アフリカへの関心の高さも故国との生活習慣の近さを思えば納得する。
 つまり、彼の写真はポルトガルの国土に匹敵するほど巨大な故郷の谷からすべて始まっているということだ。世界の中心が人間にあり、速度ある変化を生み出している都市とは異なる視座がそこで育まれ、ブラジルが工業化に向かった青春期に抱いた疑問が生涯のテーマになった。サルガドの写真のすごさは審美的価値にあるのではない。一亡命者として自分の出自と時代に問いかけてきた生き方のすごさなのである。
    ◇
 中野勉訳、河出書房新社・2592円/Sebastiao Salgado,Isabelle Francq
 サルガドはブラジル出身の写真家。

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