高橋弘希「朝顔の日」書評 背景の戦争がときおり、牙をむく
評者: 朝日新聞読書面
/ 朝⽇新聞掲載:2015年09月13日
朝顔の日
著者:高橋 弘希
出版社:新潮社
ジャンル:小説・文学
ISBN: 9784103370727
発売⽇: 2015/07/31
サイズ: 20cm/123p
朝顔の日 [著]高橋弘希
肺を病んで入院した妻を見舞う夫。医者から、身体だけでなく咽(のど)も「安静に」と言われ、若い夫婦の会話は絵画帳での筆談になった。胸郭成形手術を勧められた妻は、ある日、夫を散歩に誘い出し、そっと絵画帳に書く。手術を受けたら「その日に死んでしまふ気がするのです」。昭和16年12月8日の出来事も挟み込まれるが、戦争の足音は遠く、物語は静かに進む。しかし、背景に退いたはずの戦争がときおり、牙をむく。同時に、夫婦の会話は静かに密度を増していく。抗(あらが)いがたいものに意思を持って抗しているわけではない。しかし、流されているわけでもない。そんな日常の生活が描かれている。そこにこそ人生の真実がある、とでもいうように。
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新潮社・1512円