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昭和天皇の戦後日本―〈憲法・安保体制〉にいたる道 [著]豊下楢彦

[評者]保阪正康(ノンフィクション作家)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■二つの危機しのいだリアリスト

 敗戦から講和条約発効までの6年8カ月間、天皇制には二つの危機があった。憲法改正時には天皇制廃止の、そして東西冷戦下では内外の共産主義による天皇制打倒の危機である。この二つを昭和天皇はどう乗り切ったのか、そこに見られるリアリズムを検証した書である。
 とくに『昭和天皇実録』を読みこなし、著者のこれまでの視点を確認、微調整して昭和天皇の意思をありのままに浮かびあがらせた。実録解析の貴重な書となっている。
 6年8カ月の間、天皇は「歴史」と戦い続けた。具体的にはGHQ最高司令官のマッカーサーと、あるいは日本軍国主義清算のために東條英機などとだが、天皇が東條とのからみで戦争責任をどうとらえていたかがわかってくる。侍従次長の木下道雄の願い出で、独白録を作成し、さらに東京裁判用に英語版独白録もつくる。この英語版を急ぐ理由が、マッカーサーとの2回目の会見と関わりがあることを著者は指摘する。
 東條が東京裁判で用いる国家の論理は、かなり杜撰(ずさん)であり、「責任者の“無責任さ”の極致」である。そのことを天皇は不快に思い遠ざけたことが、結果的に天皇制の温存につながった。著者はマッカーサーとの多くの政治的会話を推測しつつ、天皇の胸中に入りこむ。天皇の矛盾もまた浮きぼりになっていく。
 天皇は、共産党封じ込めの関連法案が解体されることに「誠に遺憾」との意思を示した。東西冷戦下にあってマッカーサーとの会話では、日本が西側陣営に留(とど)まるためにこちらからも条件をだす(沖縄を基地として利用してほしいなど)。実録は天皇が講和条約を話し合う人物をマッカーサーに伝言していたことなどを明かすが、著者もそれを重視する。
 本の終盤でふれている安倍首相のあまりに軽い戦後レジームの清算論に「歴史家」の怒りを見る。
    ◇
 岩波書店・2592円/とよした・ならひこ 45年生まれ。元関西学院大教授。国際政治論・外交史。『安保条約の成立』

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