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図説―ホモセクシャルの世界史 [著]松原國師

[評者]三浦しをん(作家)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]歴史

表紙画像

■真の成熟社会、実現のために

 大変な労作かつ大充実の一冊。豊富な図像がちりばめられた本文だけで567ページ、さらには詳細な索引と文献一覧が加わって、「世界史上において男たちが、どのように愛を交わしてきたか」を、地域ごとに眺めることができる。「男性の同性愛の歴史について調べたい」と思うひとは必携の書だし、文献案内としても非常にすぐれている。
 本書を読むとつくづく、同性愛を否定することはすなわち、人類の歴史を否定することに等しいんだな、と実感される。あらゆる時代と地域で、男性は男性を愛してきた。同時に、男同士が仲良くしているかたわらで、女性がボーッとしていたはずはなく、女同士のコミュニティーや愛や文化が存在していた(いる)のもほぼまちがいあるまい、ということも浮き彫りになってくる。
 個人的には、「中国すごいな」と思った。3世紀ごろから男色がますます盛んになり、「大勢の夫婦が離婚した」ほどだそうだ。しかし妻も負けてはおらず、男と逢(あ)い引(び)きする夫に対して、痛烈な一言を放つ。どんな言葉だったかは、ぜひ本書をご覧いただきたい。ううう、「ぐぅ」の音も出なかっただろうなあ。
 例外的に、男性の同性愛を罪悪視したのが、ユダヤ教およびキリスト教だ(とはいえ、その社会でもやはり同性愛は存在しつづけていたのだが)。同性愛を「ふつう」じゃないと感じるかたは、その根拠が那辺にあるのか、本書を読んでいま一度考察してみるのもいいだろう。
 「真に成熟した社会とは、性的指向や性愛の行動スタイルなどに関係なく、万人が快適に暮らしていける精神的・文化的に豊かな世の中を実現させるもの」との著者の言葉に、全面的に賛同する。それを実現するべく、人類の来し方や多様な文化を知り、現在と未来に活(い)かすための、重要な資料となる一冊だ。しかも、見て読んで楽しいよ。
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 作品社・4104円/まつばら・くにのり 52年生まれ。西洋古典学研究者。『西洋古典学事典』『男色の日本史』など。

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