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颶風の王 [著]河崎秋子

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■馬と一族の宿命、体感的に描写

 馬との宿命的な関わりを、こんなふうに大胆且(か)つ体感的に描いた小説がかつてあっただろうか。河崎秋子『颶風(ぐふう)の王』は、馬とともに歩む一族の、六世代にわたる足取りを追いかける作品だ。
 舞台は東北そして北海道。時代は、明治から平成へ。新天地での仕事を求めて、東北から北海道に移住する捨造は、母から受け取った紙切れを読む。そこには、捨造が生まれる以前のこと、雪崩で遭難した母がいかにして生き延びたかが綴(つづ)られていた。一頭の馬と遭難した母は、雪の中、とうとう大切なその馬を食べて命を繋(つな)いだのだ。凄絶(せいぜつ)な場面だが、心打たれる。
 時は移る。捨造とその家族は、根室の沖に浮かぶ花島で放牧させていた馬を失う。台風で道が崩壊し、馬たちは崖上に取り残されてしまったのだ。崖上の馬たちはそこで生き、繁殖し、野生化していく。島に置き去りにした馬を、年月が経っても気にかけ続ける和子は捨造の孫。その孫であるひかりは、現代を生きる大学生。馬との関係は祖母から聞かされている。
 「ひかりから数えて五代前の女性は、冬山で遭難した際、馬を食べて生き延びたのだそうだ。真偽については確認しようもないが、多少の誇張はあってもあり得ない話ではないとひかりは思っている」。真に迫る描写で肉感的に描かれた出来事が、五代後の子孫には伝説めいたこととして伝わる。この伝承と伝播(でんぱ)の描き方も、興味深い。
 ある日、花島にまだ馬が生きていることを知ったひかりは、その調査に参加し、確認しに行く。そして生き残った最後の一頭と出会う。馬と人の辿(たど)ってきた道が時を超えて重なり、また離れる。感動の波紋が胸にひろがる。著者は、羊飼いをしながら小説を執筆している。その経験に裏打ちされた細部と、ずしりとした手応え。スケールの大きさとともに、近くも遠くも眺める視線をもつ小説だ。
    ◇
 角川書店・1728円/かわさき・あきこ 79年生まれ。羊飼い(酪農に従事)。本作で三浦綾子文学賞。

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