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「人間国家」への改革―参加保障型の福祉社会をつくる [著]神野直彦

[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]政治 社会

表紙画像

■人への投資が生む、新たな経済

 「失われた20年」の間、いくら経済政策を打っても経済成長率は高まらなかった。とはいえ、私たちの経済社会も過去20年間、大きな構造変化を遂げた。その認識なしに経済政策を打っても、効果が出ないのは当然ではないか。
 本書はいま私たちが「歴史の『峠』」に立っていると説く。つまり、(1)産業構造の変化(脱工業化、知識集約型産業への転換)と、(2)消費者の欲求の高度化・多様化、という、二つの大きな地殻変動が生じているというのだ。こうした変化に対して、生産現場に求められるのは、工業社会時代の均一性、正確性、規律から、多様性、柔軟性、創造性へと大きく変わりつつある。
 そこで重要なのが、人間の「人間的能力」(対人能力や創造性)を高めることだ。そのためにも社会インフラを、工業社会対応型から、知識社会対応型へと張り替える必要がある。最も重要なのは、教育制度と社会保障制度だ。政府は増税を行ってでも、将来、確実に果実を生む「人への投資」を怠ってはならない。
 新しい経済社会の創造には、「参加型」民主主義の充実も重要だ。会社、学校、家庭で人々が隔離されるのではなく、地域で多様な人々が触発しあい、自発的に組織(サークル)をつくり、学び、協力し合って成長していく場をつくる。それらを通じて人々が政治、経済、社会の営みに参加する回路を保障していくことが、豊かな社会をつくる鍵だ。そうした社会こそが実は、多様性、柔軟性、そして創造性を生み出す。経済成長は結局、こうした知識社会への対応に成功した証しとして、もたらされるのかもしれない。
 時代の大きな構造変化を読んだうえで的確な時代診断を下すその切れ味は、著者の真骨頂だ。何よりも、市場に翻弄(ほんろう)されるのではなくそれを制御して「人間的」な社会を築こうという著者の熱いメッセージが、一人でも多くの人々に届くことを願ってやまない。
    ◇
 NHKブックス・1404円/じんの・なおひこ 46年生まれ。財政学専攻、東京大名誉教授。『「分かち合い」の経済学』

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