書評・最新書評

鉄道デザインの心―世にないものをつくる闘い [著]水戸岡鋭治

[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)

[掲載]2015年09月13日

[ジャンル]経済

表紙画像

■効率より空間と時間にこだわる

 水戸岡鋭治さんは鉄道のデザイナーとして有名だが、全国の鉄道に乗っているわけではない。京浜工業地帯を走るJR鶴見線に同乗したときには、首都圏にもこんな線があるのかと驚かれ、運河や工場の夜景を眺められる車両をわざとゆっくり走らせるなどの案を次々に披瀝(ひれき)された。
 本書を読むと、水戸岡さんが現在の鉄道業界にあっていかに孤高の存在であるかがよくわかる。ブルートレインの全廃に象徴されるように、鉄道のサービスが速さと効率に集約される風潮に敢然と異を唱え、鉄道の車内で過ごす固有の空間と時間にこれほどこだわるデザイナーはほかにいない。このデザイナーに全幅の信頼を置くJR九州の度量の広さも称賛に値しよう。
 かつて九州の薩摩や肥前などの西南雄藩は、江戸幕府を倒して明治維新を起こした。水戸岡さんが九州を舞台に起こした「革命」が、いつの日にか日本の鉄道全体へと波及してゆくことを、本書を読みながら夢想した。
    ◇
 日経BP社・2160円

関連記事

ページトップへ戻る