書評・最新書評

たすけて、おとうさん [著]大岡玲

[評者]本郷和人(東京大学教授・日本中世史)

[掲載]2015年09月20日

[ジャンル]文芸

表紙画像

■得体の知れぬ 重く深いこわさ

 著者が『ピノッキオの冒険』など誰もが知る名作を読み、その解釈を下敷きにして新しい物語を紡ぐ12の短篇(たんぺん)集。
 やわらかな語り口とひらがなの多い文章は童話風で、内容は自己とは何か、社会的成功とは、男と女は、など多岐にわたる。短時間で読み通せるがいったん本を閉じ、書評と創作とを一度に楽しめたなと、それで終われる人はまずいまい。得体(えたい)の知れぬ何ものかに引っかかり二度、三度読む。この違和感は何だろう、これは何を意味するのだろうとくり返し読む。それくらい本書は重く深く、こわい。
 書評とは、ここにこれほどにすばらしい本があると紹介できる喜びが一方でありつつ、おまえは本当に内容を理解しているかと厳しく問われる営為である。著者は私には想像できぬほど(様々な意味で)豊かな環境の中で育っていて、だからこそなしえる描写が本書のそこかしこにある。かかる著者との対峙(たいじ)は、真底(しんそこ)こわかった。だから、「たすけて、おとうさん」。
    ◇
 平凡社・1944円

関連記事

ページトップへ戻る