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ヒトはこうして増えてきた―20万年の人口変遷史 [著]大塚柳太郎

[評者]島田雅彦(作家・法政大学教授)

[掲載]2015年09月27日

[ジャンル]歴史 人文

表紙画像

■生存力拡充の歩み、近付く飽和

 狩猟採集時代、人口は野生動植物の量に規定されていた。だが、石器を使い、狩りの成功率を高め、土器を用い、食用可能範囲とカロリー摂取効率を高めたことで、ヒトはほかの動物よりも生き残りに有利になった。また、新天地への移住も人口増加の重要な要素だったが、移住は火の使用、乱獲による環境の急激な変化をもたらしたし、気候変動という要因も加えると、狩猟採集時代の人口支持力には限度があった。
 農耕の始まりとともに定住が始まり、生存基盤が拡充されると、人口が飛躍的に増える。古代文明が成立すると、社会階層が生じ、食料生産に関わらずとも、政治と戦争にかまけていられる市民と、その居場所である都市が出現する。さらに都市が結びつき、帝国が生まれる。人口が密集すると、疫病が発生し、帝国が版図を広げると、戦争が起きる。産業革命以前は自然、人為両方の人口調節装置が機能していた。人口増加曲線は産業革命以降に急カーブを描く。生産効率が上がり、流通が発展すると、安定的な食料供給が可能になり、また公衆衛生観念が浸透したことで、死亡率が下がり、今日の人口爆発に至った。
 私が小学生だった四十数年前、世界人口は約三十六億人と習ったことを覚えているが、現在は七十二億人と倍に増えている。地球はいったいどれくらいの人口を養うことができるのか? 諸説の平均を取ると、およそ百二十億くらいだというが、その前に戦争か、パンデミックか、気候変動か、大天災か、大淘汰(とうた)が起きることへの漠然とした不安がある。本来、文明とは自然淘汰への抵抗であったが、人口が飽和状態になれば、総人口の一パーセントに過ぎない富裕層の生き残りのために残り九十九パーセントの人口の調節を図られるような人為的な淘汰が行われるのだろう。それを考えると、私はにわかに早死にしたくなる。
    ◇
 新潮社・1404円/おおつか・りゅうたろう 45年生まれ。自然環境研究センター理事長。専門は人類生態学。

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