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その〈脳科学〉にご用心―脳画像で心はわかるのか [著]サリー・サテル、スコット・O・リリエンフェルド

[評者]佐倉統(東京大学大学院情報学環長・科学技術社会論)

[掲載]2015年09月27日

[ジャンル]科学・生物 医学・福祉

表紙画像

■心は複雑、成果の真偽見抜く力を

 脳科学の進歩はものすごい。今や人の心はすべて脳で説明できると言わんばかりの勢いだ。商品のマーケティングから薬物中毒、選挙の投票行動、学校教育、法廷での証言のウソを見抜くことまで、脳科学と結びついている。
 そんな趨勢(すうせい)に、きっぱりと待ったをかけるのがこの本だ。脳のことはそんなにわかっていない。心についてはっきり言えることなんて、ほとんどない、と。
 著者のサテルは精神科医、リリエンフェルドは心理学者で、共に、それぞれの専門分野と社会や思想との関係についての思索を続けてきた論客として高く評価されている。本書での大立ち回りも迫力満点、論旨は明快、学術的成果をしっかり踏まえているので骨太の説得力がある。
 著者らの批判の要点は、人間の心は非常に複雑なので、脳だけに原因を還元できない場合が多いということだ。環境の影響や、そのときそのときの状態の変化によるところも多い。また、何らかの心理的現象の際に脳の特定の部位の活動が見られたとしても、それは相関関係であって、因果関係を意味するものではない。常に脳が心の原因とは限らず、逆もありうる。
 このような状況のもと、著者たちは脳科学リテラシーの重要性を強調する。科学的成果の応用例の真偽を見抜く眼力である。ただ、それを高める具体的な方策があまり述べられていないのは、残念なところだ。
 本書は脳科学の意義を低めるものではない。真面目な脳科学者もたくさんいるし、なんといっても問題なのは研究成果の適用のしかたであって、研究そのものではない。著者たちも脳の基礎研究は、もっと必要だと述べている。脳科学がさらに進めば、著者たちが指摘する問題の多く(あるいは、いくつか)は解決されるだろう。だが今はまだ時至らず。みなさん、もうちょっと冷静に。
    ◇
 柴田裕之訳、紀伊国屋書店・2160円/Sally Satel イェール大学講師。Scott O.Lilienfeld エモリー大学教授。

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