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鴎外と漱石のあいだで—日本語の文学が生まれる場所 [著]黒川創

[評者]蜂飼耳(詩人・作家)

[掲載]2015年10月04日

[ジャンル]ノンフィクション・評伝

表紙画像

■東アジア視野に文学史問い直す

 近代の日本語文学史を、東アジア全域を視野に入れる方法で辿(たど)る。日露戦争や大逆事件等によって揺らぐ二十世紀初頭、日本語による読み書きはすでに日本人だけのものではなかった。本書はその様相を考え、捉え直す。
 日本統治下の台湾での文学運動と日本語での作品執筆の試み。中国の近代文学に重要な足跡を刻む魯迅や、朝鮮の近代文学の体現者・李光洙にも影響をもたらす漱石。「悪」への視線をもつ鴎外。扱われる事柄は幅広い。重層的に捉えるべき話題と事例の集積が独自の構図を編み出す。
 日本近代で「もっとも深く大きな精神史上の転換が進む」時期を、著者は一九〇五年から一九一〇年へと至る数年と考える。この視点から語られる、言葉や知識の共有と往来。「ここにある世界でさまざまな人がどうにか互いの言語を交え合わせた轍(わだち)」のかたちと価値に、著者は目を凝らす。新鮮な構図は、いまとこれからを考える上での問い掛けに満ちている。
    ◇
 河出書房新社・3240円

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